若青年層の購買力低下が影響? 海外渡航伸び悩みの数値的検証
2007年の海外渡航者数が1,729万人とJNTOから発表された。
2006年より僅かながら減少、2000年の1,782万人をピークに伸び悩みが続いている。
訪日外国人1,000万人を目指したVJC(Visit Japan Campaign)が順調に進展しているのに対し、日本人海外渡航2,000万人を目指すVWC(Visit World Campaign)は現在苦戦状態にあるといえる。
また団塊層が需要拡大する一方で、20~30代層の減少が指摘されている。 曰く、価値観や文化の多様化による、あるいは非正規雇用の増大による低所得化によるものと。
こうした事象について、種々の統計データによってその実態を確認するとともに、将来も展望してみた。
1. 海外渡航者総数の減少は20~34歳青年層の大幅減少が要因; JNTO統計にみる年齢層・男女別状況
傾向をより明確にみるために、比較間隔を1年広げて2005年と2007年との差を見ると、1740→1729万人と11万人減少。
60歳以上は+30万人と+11%の増加であるが、20~34歳青年層が▲45万人と大幅に減少(▲9%)し、これが総数減少の要因となっている。
その他の層はほぼ横這いとなっている。
若青年層の減少が、全体の伸びを阻んでいることは事実といえる。
しかしこの層は人口も減っている。それとの関係ではどうだろうか?
2. 人口の増減もあるが、出国率の変化が問題; 総務省の年齢別人口統計との関係をみる
年齢階層別に人口を見ると、この2年間で60歳以上は+188万人と5.4%増加したのに対し、20~34歳で は▲149万人と減少(▲6%)しており、人口の増減も影響していることは確かである。しかしそればかりといえない。
出国者数を人口で除した「出国率」をみると、60歳以上が7.8%→8.2%と0.4ポイント上昇(率にすると5.5%)しているのに対し、20~34歳は20.3%→19.7%と0.6ポイント(率にすると3.0%)低下している。
実は若年層の出国率は今に始まったことではない。
JTBレポートによれば、1995年と2006年の20代の出国率比較は、男性が17.8→14.7%と3.1ポイント低下(率にすれば17%)、女性に至っては30.9→24.3%と6.6ポイントも低下(率にすれば21%)している、というように長期低落傾向を示している。
3. 海外旅行は行きたくても行けないという事情; JTBの20代若者に実施した旅行動向調査にみる傾向
2008年3月にJTBが20代若者に対して実施した旅行動向調査結果によると、今お金があれば最も使いたいのが海外旅行としている。 即ち、若年層の好みや文化が多様化していることは事実としても、海外旅行への根強い志向があることも間違いがない。
ところが行きたくても行けない理由として、①休みがとれない、②お金が無い・他に使いたいものがある(含む貯金)、③同行者とのスケジュールが合わない、④海外での不安(言葉・治安・衛生等)などがあげられている。
これらの理由のうち、経済的な理由については、現代の社会構造上の問題が内在しているように思える。
以下、それと思われる事柄を2つ取り上げてみたい。
4. 非正規社員割合の増加; 総務省の労働実態調査との関係をみる
非正規社員の増加はよく知られているところであるが、最近数年の推移を年齢階層・男女別にみると、25~34歳は男女とも非正規社員の割合が一本調子で増えている
(H15) (H19) (差)
25~34歳 男性 10.2% → 13.8% +3.6ポイント
同 女性 37.8% → 42.4% +4.6ポイント
勿論その他の年齢階層においても非正規社員の比率が増えているが、それ程顕著ではなく、また年により波も打っている。
25~34歳層の非正規社員の割合増が、次項で述べる給与の低下と相俟って、海外旅行の阻害要因として作用(特に女性)していると思われる。
なおH19年には、非正規社員数は1,732万人に達し、雇用者総数の3分の1を超えた。

5. 給与の減少; 国税庁の統計にみる給与収入の全般的低下
国税庁の統計によると、給与収入の低下が続いている。
H14~H18年の推移を給与階層別にみると、
・ 男性は、年収300万円以下の割合が増え続け、他方300万円超~1000万円以下が減少している。なお1000万円超の割合は余り変化がない。
(H15) (H19) (差)
~300万円以下 17.8% → 21.6% +3.8ポイント
300万超~1000万円以下 74.9% → 70.9% ▲4.0ポイント
1000万円超 7.3% → 7.5%
・ 女性は、非課税枠パートが中心と思われる100万円以下を除外した上で傾向をみると、100万円超~200万円以下の割合が大きく増え、逆に200万円超~400万円以下が大きく減少している。
(H15) (H19) (差)
100万超~200万円以下 24.1% → 27.1% +3.0ポイント
200万超~400万円以下 41.4% → 38.0% ▲3.4ポイント
給与レベルの低下に加え、定率減税廃止、年金保険料の負担増等も、手取り収入の減を増幅していると思われる。
なおH18年には、年収200万円以下が1,000万人を超えた。(男性263万人、女性760万人)

6. 雑感
貨物の流動が国の景気の先行指標であると同様に、海外旅行消費は国内購買力の先行指標となるものと思う。 そして近年の若者層の価値観の多様化は、その弾性値を更に大きくしていると考えられる。
若青年層の非正規社員割合増と給与レベルの低下は、それが全てでないにしても、日本人海外旅行需要の伸び悩みに大きく影響していることは確かであろう。
VWCの達成のためには、国の課題としては、若青年層の購買力向上に取り組むべきと思われる。
また同時に、旅行・航空業界としては、購買力の低下を受容した上で、弾性値の高さを活用し、魅力ある商品を提供することにより、若青年層を中心に需要を拡大することが必要であり、また可能と考える。
例えば、国内旅行の盛況(海外旅行に比べて、料金のほかに安全・安心も売り物)がそれであり、また超低運賃により航空の新規需要を大きく拡大したアジアのLCCもヒントの一つになると思われる。
以上 (赤井奉久)
参照資料
JNTO: 統計報道発表一覧
| http://www.jnto.go.jp/jpn/tourism_data/data_info_listing.html |
| 統計報道発表資料(訪日外客数/出国日本人数) |
| http://www.jnto.go.jp/jpn/downloads/080418stat.pdf |
| http://www.jnto.go.jp/jpn/downloads/070412stat.pdf |
| 総務省統計局 |
| 年齢(各歳),男女別人口及び人口性比-総人口,日本人人口 |
| http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001010882 |
| 総務省統計局 |
| 第2表 雇用形態,雇用者数(年齢階級別正規雇用者数・非正規雇用者数) |
| http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/index.htm |
| http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/zuhyou/900200.xls |
| 国税庁統計 |
| http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/ |
| http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/minkan2006/minkan.htm |
| 民間給与の実態調査結果(全データ)(PDFファイル/1,305KB) |
| http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/minkan2006/menu/pdf/001.pdf |
| JTB広報室資料;2008.3.19.発行「20代若者の旅行動向調査」 |
| http://www.jtbcorp.jp/scripts_hd/image_view.asp?menu=news&id=00001&news_no=821 |