3.3つの大局的視点 (1)航空運輸事業が持つ特性
2.3つの大局的視点
この経営危機は、勿論これまでのJAL経営が招いたものです。
しかしながら、日本と日本の航空事業を俯瞰しますと、航空事業の宿命的構造と、国や地方の政策や戦略の不在も無視できないと考えます。
以下、(1)航空運輸事業が持つ構造的特性、(2)日本の交通/航空政策などから来る問題、そして(3)JAL自体の経営の問題の3点について述べることにします。
(1)航空運輸事業が持つ構造的特性
以下の4つを取り上げたいと思います。
① 巨額の資金を要する装置産業;
また実際それを行った多くの会社が勝ち残ってきました。過去のJALにも、ジェット化に遅れた失敗体験や、大型ジャンボ化に先んじた成功体験があります。
新機材には、燃油効率や居住性が高い(商品競争力が高い)というメリットがあり、大型化は、単位(席)当りコストを引き下げるという効果があるためです。
他方では、資金力に弱い航空業界は借入金(金融)への依存性が高く、財務的にリスクを抱えることともなります。そして儲けを、航空機メーカーや金融に分かち、収益性の低下に繋がる副作用もあります。
しかし機材更新の遅れは競争での敗退に繋がることから、巨額の投資を続けざるを得ないというのが業界の潮流です。
(補足2) 因みにJALは、約8,000億円の航空機(部品を含む簿価、元々の購入価格は推定
約2兆円、ほかにリース機がある)で、約1兆7,000億円の収入を稼いでいます。また
約8,000億円の借入金(有利子負債)があります。約90機の新機材を発注していて、
その購入のために、今後8年間で1兆2,000億円の資金が必要です。
ANAは、約6,800億円の航空機(同上、元々の購入価格は推定約1兆3千億円)で、
約1兆2千億円の収入を稼ぎ、借入金は約8,400億円です。約90機を発注していて、今
後の所要資金は約8,300億円です。(数値はいずれも2009年3月末現在)
(補足3) 大型機(B747)は、長い間JALの収益性を支えてきました。
'80年代後半からの旺盛な需要を、限られた羽田・成田の発着枠で吸収してきまし
た。また長距離直行便に適ったほぼ唯一の機材でした。
大型化は、乗員や空港での費用等、席当りコストの低下ももたらしました。
しかしその後、燃油価格が上昇していく中で、効率の良い双発の中大型機(B777等)
が登場、洋上飛行の制限が緩和されたことから長距離便の運航に拡まってきました。
それは幾分小型(席数が少ない)であるため、高い利用率が得易いことでもB747
より採算性の取り易い機材となっています。そして需要伸び悩みの中での競争激化と
燃油の更なる高騰は、その傾向を一段と強めています。
JALも大型機の機材更新を図っていますが、保有機数の多さと、資金リスクを考慮
して、そのテンポは緩やか(従って燃費効率化もその分緩やか)なものになっています。
② コストの大半が固定費・準固定費;
航空事業のコストの多くは、機材・人件費・システム費用等の「固定費」で占められています。また燃油費・着陸料・整備費といった費用も、飛行機を飛ばせば、旅客や収入の多寡に拘らず発生するという点で、柔軟には制御できない「準固定費」です。そしてそれらの固定費・準固定費が総費用の9割以上を占めています。
また機材や路線構成等は、短時間では軌道修正ができません。
一方収入は大きく変動します。特に国際線の需要波動は大きく、最近10年はいろいろな国際的事件や出来事の影響を受けてきました。中でも日本人マーケットはその傾向が強く、アメリカの9.11テロ事件やSARS,新型インフルエンザによる需要落ち込みはその発生国より大規模なものでした。
③ 円高でコスト競争力が低下;
'80年代後半から進行した円高は、徐々に日本企業の国際線のコスト競争力を低下させました。
円高は確かにドル建ての燃油費や機材費の負担を軽減しました。これは国内線の収益性にはプラスに働きます。
しかしながら国際線には、外国社との競争でマイナスに働きます。
日本企業の国内費用(円貨の人件費や一般コスト)が、外国社のもの(外貨の同費用)と比べて相対的に割高となります。別の見方をすれば、外国社が日本で獲得する収入は自国通貨では増えます。結果的に発生するのは、相対的にコスト競争力が強まった外国社の価格攻勢を受けての収入単価の下落です。コストは外国社ほど下がらないわけですから日本企業の収益性は悪化します。国際線は、海外企業の追随を受け易い業種の製造業と酷似しているわけです。
ところが'80年代後半からの10年余りは、旺盛な需要増に支えられたこともあって、収支上そのような不利が余り目立ちませんでした。
'90年代後半に入って日本人需要の伸びが鈍化したことで、コスト差が収支に直結することとなりました。こうして円高の不利な面が顕在化してきたわけです。
加えて不幸な事件や出来事が度々発生したことでも、国際線は赤字が嵩みました。
④ 原油価格の影響の大きさ;
費用に占める燃油費の割合が大きい(特に飛行時間の長い国際線は、費用に占める燃油費の割合は約3割)ため、原油高騰は収支悪化に直結します。運賃に上乗せする燃油サーチャージも、需要の減少を招き、費用増を十分にはカバーできません。
このため海外をはじめ航空各社は、燃油ヘッジでコストの安定化を図っていますが、それ自体にリスク要素も孕んでいます。
国や社会の交通のインフラを担う航空会社が、投機マネーの影響も受けて大幅乱高下する原油価格の対応に、個々に取り組む姿は異常といえる域にあり、国家レベルや国際協力にまで範囲を拡げた対応が必要と考えます。
(補足4)JALの燃油費(2008年度;含燃料税)は5,000億円を超え、営業費用の29%
を占めています。ANAも3,000億円を超え、営業費用の25%を占めています。
(補足5)燃油ヘッジ;一定の基準を定めて、近い将来に必要な燃油を、消費に先んじて
少しずつヘッジをします。実際に使用する時点では、それより高くなる場合も
低くなる場合もありますが、乱高下を均せる効果があります。価格が上昇してい
る時は、予約したことによって費用減に作用し、逆に下降している時は費用増と
なります。
両社ともにマイナスになっています。3月末レベルの低い価格が、ヘッジ期間中
ずっと続いたと仮定した場合の3月末時点での差額はJAL2,100億円、ANAは1,400
億円です(両社の差は主に燃油消費規模差)。
《続く》
1.はじめに http://www.aviatn.com/2009/10/jal1.html
2.経営危機の引き金 http://www.aviatn.com/2009/10/jal-34.html
3.3つの大局的視点
(2)日本の交通・航空政策などから来る問題 http://www.aviatn.com/2009/10/2-9.html
(3)JAL自体の経営の問題 http://www.aviatn.com/2009/10/jal-35.html
4.JAL再建に望むこと http://www.aviatn.com/2009/10/jal-36.html