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(3)JAL自体の経営の問題

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(3)JAL自体の経営の問題

次の7つを指摘したいと思います。

 

     過去からの、財務体質上の「負の遺産」;

JALの財務体質の弱さを見るとき、過去20年余り前のことに言及せざるを得ないと考えます。

JAL1987年に完全民営化されました。行政の管理から離れ、折からの好景気や資金調達環境にも恵まれて、積極的な事業展開で事業領域を拡大しました。

 

しかし大きな失敗もありました。ホテル事業と長期為替予約です。

ホテル事業は、資産の自社保有で拡大を目指したのですが、成り立ちゆかなくなり、最後は資本準備金(約1,500億円)の取り崩しによって収拾、今は運営受託形式で展開しています。

長期為替予約は、'80年代半ばの円高進行途上で機材購入ドル資金を先物予約し、結果的にそれを行わなかったことに比べると巨額の出費増2,000億円超)となりました。その後長年にわたって減価償却費で処理され、今は終っていると理解しています。

 

処理としては両方とも終ったことですが、その時の出費増が、長年機材コストを押し上げて収益性を悪化させました。そして今なお足もとの財務体質の弱さとなって影響しています。

 

      (補足7)完全民営化時点の財務体質は強いものではありませんでした。

        それまでは航空機も政府の年度予算(保証枠)の中で年度単位で購入していました。
また「黒字は悪」扱いされた時代でもありました。政府管理下では、儲けられない

が、強い財務体質も要らない(必要以外を持ち、溜め込んではいけない)状況だった

のです。

 

     決算対策依存による財務体質の弱体化と本質的対応の遅れ;

低収益化が進行・深刻化する中で、JALはコスト削減等の自助努力を確かに重ねてきました。しかし他方では、過去から決算対応的処理や資産の切り売り等を積み重ねることでも凌いできました。後者は、不適切とはいえないものの、収入の先出しと費用の先送りの性格をもつものです。

 

そのことが財務体質の弱体化を助長し、爾後の高コスト化に繋がったと考えます。

またそうした処理が収益性悪化の問題表面化を遅らせたと思います。

もしそれらに保守的な処理がなされていたとすれば、収益性の低い実態が早期に露出していたでしょうから、再建への取り組みも早くなり、また財務的にここまで弱体化しての対処にはならなかった可能性が高かったと思われます。

 

(補足8)決算対応の事例として航空機のクレジットメモがあります。

航空機購入の際に得られる金券的なもので、部品の購入等に充てられますが、過去
長年、受領時に収入として計上してきました。航空機価格から控除して、後年度の
償却費負担を軽くする現在の方法に比べると、「将来にツケをまわした収入先食い」
として機能します。これも機材コストを押し上げる要因となりました。

 

     いわゆる「年金問題」;

JALの年金問題については、支給額の高さと、減額反対のOBという対照的構図で捉えられていると思います。その中で、反対のOBを増やしている理由の大きなものに、年金に含まれている退職金移行部分10年の確定年金)の存在があることに留意する必要があります。

社員は、退職の際に受取る退職金のかなりの部分を、年金に移行することが出来ます。予定運用利率が高いこと、及び会社の薦めもあって、殆どの社員は年金移行を選択しています。この部分は、社員の退職金のみを原資としているという点で、一般保険会社等に託する私的年金のような性格を持ったものといえます。

(注)実際の経理的処理は、会社が基金に保険料として積み立て、社員が退職一時金
を選択する場合は、それをもとに退職金を支払うという仕組みです。

 

OBの多く(特に最近早期退職したOBは、この部分は、退職金を年金という形で均して受取る(運用利息は加わりますが)ものであることから、当然保証されるべきとの考えにあり、一律減額は「退職金の不払い」であるとしています。

 

加えて社員・OBの、基金(会社)の資産運用に対する不信感も無視できないと思います。

年金資産はこの3年間減り続けています20093月末で4,000億円)

退職給付債務も減っています(同8,000億円)が、両者の乖離は大きく拡大しています。その内容が詳しく分からないことが、退職金相当額も含めて原資の保全が特に重要な年金資産の運用に、不信感をもたらしているというわけです。

 

この企業年金制度は、福利厚生の改善によって社員のモラルをあげることを目的として導入されました。他方では給賞与の抑制や、当時の基金の基準を上回る金利情勢を活かすという動機もあったと思います。

しかしその後資金運用環境は大きく変わり、それを支える人員の見通しは縮小に転じました。

 

ここ数年の間に、制度の見直しによって状況改善が図られてきましたが、事態の進行をカバー出来ず、かえって未認識債務が増えることとなっています。

この問題は、高い収益性が続けば、あるいは資産運用情勢が好転すれば、年々改善されていくのですが、実際はその逆の事態となり、問題がここまで大きくなったわけです。

 

      (補足9JALの年金問題を数値的に概観(金額は概算表示)しますと、20093月末時
点で、退職給付債務は8,000億円あり、年金資産は4,000億円、決算で財務諸表に
反映されている額は1,000億円弱ですので、その差額の3,300億円の残高が未反映
ということになります。

未反映部分は、会計基準が変更された際に新たに認識した額を約15年で償却して
いる分の残高と、資産運用における想定と実際との差から発生する金利差や、社員構
成の変化など諸々の要因で積みあがった債務です。これらは会計基準に従って処理さ
れ、前者(償却分)の残高は年々減少していますが、後者は増加しています(3月末
時点で2,600億円)。

この未反映分の年間処理額が300億円(償却分100億円強、積みあがり分の処理

 200億円)あり、これに毎年の社員の労働対価分200億円を加えた総 額数百億円が、
 そ
の年の退職給付費用となります。

そして、経営上問題となっているのが、未反映分の債務残高(3,300億円)と、年間
 の費用(数百億円)です。

 

     事業リストラと国際戦略着手に遅れたこと;

JAS(日本エアシステム)と統合したことで、一面では弱い財務体質の規模が膨らみましたが、それまで不安定な国際線に偏っていた事業構造が改善されました。

当然ながら後者の効果は大きく、JALグループとしての飛躍が期待されました。

しかしながらそれに続くべき事業構造改革や人的効率化等のリストラに遅れました。

 

会社としてのエネルギーが、グループの管理運営など、専ら内向きに使われることとなりました。当時の戦略は、グループ会社に業務を移してコスト効率化と活性化を図り、持株会社が統括するというものでした。しかしながら、それを遂行する人事や組織運営が最善とは言えず、また変貌する事業環境への経営の対応に不満を持つ層も多く出ました。間接部門の肥大化への対応や効率化も遅れました。

 

世界的な自由化加速等、内外の航空業界の環境が急激に変貌し、最も戦略的な計画と対外活動が必要な時期が、社内の受身的対応に追われた「空白の時間」になったと言えるでしょう。その時代以降、航空当局や関係分野などとの交流や連携・協力も薄まった状態が続いています。

 

それと対照的に、JJJAL/JAS)統合で危機を感じたANAが、事業リストラを急ぎ、アライアンス拡大や国内新規航空会社との提携強化、機材の小型化・低燃費化、人件費削減をいち早く進めたのは、JALには皮肉な結果となりました。

 

JALもトップ交代して、人件費に大きく切り込む施策を実行しました。

航空ビッグバンといえる首都圏空港の容量拡大に向けて、新たな戦略も打ち立てましたが、それは莫大な機材投資を必要とするものでした。

リストラで収益力を回復して、新戦略を遂行する。当面の資金的苦しさは増資等の資金調達で切り抜けるという、綱渡り的なプランでした。

それが成功しそうな矢先に起きたのが冒頭に述べた燃油高騰と金融危機であり、綱渡りの戦略を拒むものでした。

 

    ⑤ JALの国際提携戦略;

ANAが国際線に進出した直後にスターアライアンスに加盟し、逸早く国際提携を進展させたのに比べ、JALはごく最近になってワンワールドに加盟しました。

当時からアジアの拠点である東京をハブとする十分な国際線ネットワークを保有していたJALはマルチの国際提携(アライアンス)よりも、既存のアメリカン航空をはじめとする世界の主要航空会社との二社間提携を優先させて、日本市場での優位性を担保する戦略を採用しました。

最近に至り、経済のグローバル化に伴う外国人市場の成長、アライアンス加盟によるネットワーク効果などを再評価してワンワールドに加盟しましたが、JALの国際間提携が遅れたことは否定できません。

 

    ⑥ コスト削減;

    JALの人件費は約2,800億円で、営業費用の16%を占めています。

その人件費の削減施策はかなり強く推進されました。

中でも本体業務を子会社に移す分社化(機能分社化、地域分社化)は、大きなコスト削減効果をあげました。特に地場の給与レベルや雇用環境に合わせて作った地域分社は、当初懸念されたサービス低下も殆ど起こらず、成功していると思います。

但し団塊世代が退職していくことで、基幹要員育成やノウハウ伝承が最大の課題と言えます。

 

給与改定や、緊急的な給賞与カット等も、収支の悪化に対応して、十分厳しく行われてきました。

ただ、組合問題の複雑さや安全問題への対応から、一部の人件費には徹底した切込みに至っていない面もあると思われます。労使双方に競合他社との横並び意識が働いていたことも事実でしょう。

    

一般的なコスト(全体では人件費を上回る規模になります)については、徹底した削減が図られました。

調達方法の見直し、消耗品削減、消灯の徹底などにみられるように、削減は幅広くきめ細かく徹底されてきたと思います。しかし他方では、システム開発の一部にみられるように、大きな無駄と思われる出費もあったと思われます。

 

また給賞与や一般コストは、一律カットという同じパターンが強行して繰り返されてきました。こうしたことは、人事・組織運営の問題とも相俟って、少なからず社員やグループ会社社員のモチベーションの低下に繋がった可能性があります。

⑦ 人事や組織運営上の問題;

   JALの基幹要員は、高度成長期の団塊世代の大量採用、その後の経済不況の影響を受けた採用中止や少数採用などの繰り返しにより、年齢構成に極端な歪みが発生し、このことが長期的・戦略的な人材育成を困難としたひとつの理由であると思われます。

またこの人材育成も、営業や生産部門などの部門毎の縦割り的育成が中心であったため、ダイナミックな人事ローテーションを踏まえた、幅広い経営視野を持つ真のジェネラリストの育成が出来ず、結果として、それが強いリーダーシップと求心力を持ったマネジメント層の出現を困難としたと言えるでしょう。

 

更に、近年のノウハウを持った団塊世代の大量退職と、後継世代の人材の層の薄さから、本社の様々な専門分野を担う人材や、空港や営業の第一線など、現場の業務に精通したKey manの育成と配置が困難となってきています。このため、事業運営上の専門能力、現場力の低下を招きつつあるのではないかと懸念されます。

 

組織について言えば、専門能力強化の目的があったものの、コスト効率を過度に追求した、本業の基本的サービス実行組織の別会社化・子会社化戦略は、かえって事業運営を複雑化・多重化してしまったのではないでしょうか。

 

この結果、組織間の責任・権限・義務を不明瞭なものとなり、迅速な経営の指揮命令の伝達と、組織間の相互コミュニケ-ションを阻害し、現場の(マーケット、顧客などの)環境変化への敏感な対応が難しくなったと考えます。

 

 

 

     《続く》
      1.はじめに http://www.aviatn.com/2009/10/jal1.html
      2.経営危機の引き金  http://www.aviatn.com/2009/10/jal-34.html
      3.3つの大局的視点  
       (1)航空事業が持つ構造的特性 http://www.aviatn.com/2009/10/1-6.html
       (2)日本の交通・航空政策などから来る問題 http://www.aviatn.com/2009/10/2-9.html

       4.JAL再建に望むこと  http://www.aviatn.com/2009/10/jal-36.html