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米大手OTAのホテル販売

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米大手OTAのホテル販売

(このレポートは、トラベルジャーナル521日号特集「ホテル vs. OTA」の原稿である)

 

米大手OTAにとって、ホテル販売が利益の源泉となっている。

巨大なリーチ・世界市場展開・マーチャント販売の3つがOTAの武器だ。

激化するホテル直販や新興OTAとの戦いに勝ち残り続けるのか・・・

大手OTAの中でも淘汰が始まりつつあるようだ。

グロス販売額で世界最大のExpediaと、時価総額で世界最大のPricelineの勢いは止まらない

 

【米大手OTAのホテル販売の現状】

 

Expedia, Priceline, Orbitz, Travelocitcyの米国大手ホテル販売OTA 4社は、eコマースが普及し始めた2000年頃を境に相次いで上場した。航空会社が自社サイト経由のオンライン直販を拡大して、それまで仲介業者に支払っていたコミッションをカットした時期も丁度この頃だ。コミッションをカットされた仲介業者は、エアーからより儲かるホテル、クルーズ、ツアーの依然としてコミッション付きの旅行商品販売へシフトした。特に大手OTAは、彼らが保有している巨大なリーチ(即ち量販力)を梃に、ホテルから10%のコミッションは勿論 20%以上値引きしたマーチャントレート(1) を獲得して、ホテルが抱えた在庫の一掃に協力した。そして、そろそろ市場の成熟化が始まりつつあった米国市場から、オンライン化が遅れていた欧州市場への展開を開始した。チェーンホテルが多い米国とは異なり、中小の独立系ホテル(大きな独自の販路を持つことができない)がひしめく欧州では、そこに進出した米大手OTAの販売力は強力で、あっと言う間に欧州オンライン ホテル市場の54%(2) を席巻した。

(1) マーチャントレート=客室卸価格、ここで言う「20%超値引きしたマーチャントレート」とは、ラックレート×0.8の客室卸価格を意味する。

(2) PhoCusWright's European Online Travel Overview 7th Edition

 

Pricelineは、欧州の複数のリジョナルOTAを矢継ぎ早に買収しそれらをbooking.comに統合した。そして、200711月にはAgodaを買収して欧州に加えて今度はアジア太平洋地区市場のシェア拡大を目論んでいる。このリジョナルOTA買収による市場拡大戦略が大成功した。Pricelineの国際市場販売は、総グロス販売額の79%2012年第1四半期 39億ドル、約3,120億円)まで拡大し他を大きく引き離している。

Expediaは、どちらかというと買収には消極的でオーガニックな成長戦略を(少なくとも今までは)基本としている。このOTAの強みは、何と言ってもホテル客室のマーチャントレート販売モデルだ。積上った在庫の客室を安価で仕入れ、それに大きなマージンを載せる利幅の大きいこのモデルが、Expediaの利益の源泉となっている。

一方Orbitzは、過去3年間も連続して損失を計上してこの2社の後塵を拝している。もともと航空会社がOTAに対抗するために設立したOrbitz(3) の、採算性の悪い航空券販売が依然として多いのが損失の原因だ。最近、ホテル販売を強化しているものの、その成果はあまり上がっているとは言えない。

Travelocityは、2007年に親会社のSabreSliver LakeTPG連合に買収されて以来私企業となっている。そのため財務データが開示されておらず、その業績を知ることができないが、業界では「Orbitz並み」だと言われている。

(3) 設立時のプロジェクトのコードネームはT2=Terminate Travelocityと呼ばれていた。

 

米大手OTAの業績比較は、株価の変動(チャート)を見れば一目瞭然だ。躍進著しいPricelineの株価は、過去5年間で12倍以上も値を上げた。Expediaは必死に株価を維持している。Orbitz-70%も下落した。この結果、Pricelineの時価総額は367億ドル(約29,360億円)となり(4)、グロス販売額で世界最大の旅行会社Expedia54億ドル(約4,320億円)を7倍近くも上回る時価総額世界最大の旅行会社となっている。

(4) 米航空会社で最高の時価総額を誇るDelta航空の93億ドルを約4倍上回る。

 

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(注)Expediaは、201112月にTripAdvisorを分社化した。 上記チャートでは分社化による株価の下落(約▲40%)を補正して、分社化以前の株価を維持させた格好にしてある。

 

 

 

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【販売チャネル増加、米大手OTAにとって競争激化となるか?】

 

GoogleAppleFacebookなどの大手の第三者ゲートキーパーが、ホテルの流通分野に参入し始めている。第三者ゲートキーパーが、消費者のホテル検索の"選ばれる入り口"になりつつあるのだ。全米ホテル宿泊施設協会(AHLA)とSmith Travel Researchが、最近発表した調査「ホテル流通チャネル分析ガイド」(Distribution Channel Analysis: Guide for Hotels) が、米国のホテルがOTAに対して27億ドル(約2,160億円)の流通コスト ---- OTA総ホテル販売額の20%以上 ---- を支払ったと報告している。そして3年〜5年後には、これが倍増する可能性があると指摘している。流通経費をなんとか抑制し、ルームレートの価格支配権をOTAから取り戻したがっているホテルは、航空会社がOrbitzを設立したのと同じように、共同して直販サイトのroomkey.comを立ち上げた。この他にも、半値で売れ残りのホテル客室を販売するGrouponLivingSpecialなどのフラッシュセールスが誕生している。

 

第三者ゲートキーパーやホテル共同直販サイト或はフラッシュセールスの登場は、ホテルのオンライン販売チャネルがそれだけ増加することを意味している。つまり既存の仲介業者であるOTAにとっては、競争が激化することを意味していると考えるのが普通である。しかし話はそんなに単純ではない。米コーネル大学のホテル学科は、消費者の75%がホテルの直販サイトで予約する前に価格比較やレビュー(口コミ)を閲覧するために複数のOTAを訪れていると指摘している。つまり、ここではOTAがホテルのバーチャルな広告塔の役割をしてくれていると言うのだ。その分を広告費と考えれば、ホテルがOTAに支払っている27億ドルは、ホテルの直販の一部にも刺激を与えている広告費を兼ねている訳だから、そんなに高いものではないとコーネルは言っている。またウオール街のアナリストたちの一部は、ホテル共同サイトroomkey.comや、半値で販売するフラッシュセールについて懐疑的だ。航空会社がOrbitzを手放したように、過去のサプライヤーの共同事業のほとんどが今まで成功していない。 またフラッシュセールが半値で販売した客室収入は、サイト運営業者とホテルで折半される結果ホテルの手元には通常価格の25%しか残らないことになる。アナリストたちは、フラッシュが掻き集めて来る顧客は格安価格志向のロイヤルティーが欠如した需要なので、リピートする確率は高くないと言っている。結局フラッシュは、OTAよりも極めてコストが高い問題チャネルだと彼らは分析しているのだ。Google, Apple, Facebookのゲートキーパーの旅行流通市場への登場だって、OTAにとって競争が激化すると考えるのは早計だ。GoogleHotel Finderのケースに見られるように、OTAはゲートキーパーの広告主でもあるからだ。OTAにとってはゲートキーパーのユーザインタフェースが改善すればするほど、そして彼らが予約機能を持たない限りは(ここが重要だ)、自分たちへ高品質のトラフィック(セールスリード)が送り続けられると考えている。

 

 

OTAのホテル販売覇権争いは続く】

 

米大手OTAは、着々と将来の競争激化への備えを準備している。ゲートキーパーが予約機能を保有してOTAにならないとも限らないからだ。Roomkey.comだって、ホテルがしっかり結束すれば成功するとも限らない。また新興OTAも次々と生まれている。Guestmobは、3つ星〜5つ星のホテルを20%から30%値引きしてオペーク販売(5) する。TripAdvisorの姉妹会社が立ち上げたTingoは、予約後の価格下落に対応して自動的に再予約してくれる。BackBidは、Pricelineの「Name Your Own Price」モデルのような顧客が指値をするのとは全く逆で、ホテルが顧客の希望する宿泊日の価格を競争入札するモデルだ。Room 77は、ホテルの各階の客室の間取りとそこの窓から見ることができる室外の景観を描写する。DealAngelでは表示価格が通常価格よりどれだけ安いかを知らせる。Global Hotel Exchangeは、ホテルに無料のスペースを提供し、顧客から $2.99を徴収する所謂"場貸し"サイトだ。革新的な新興OTAが目白押しの状況だ。(5) オペーク(Opaque)販売=予約した後に初めてサプライヤーの社名を表示する廉売モデル。廉売によるサプライヤーのブランド毀損を回避する販売手法。

 

米大手OTAは、今後成長が予想されるこれらの新規参入者やホテルの直販と対抗するために、幾つかの対策をしっかり立てている。その1つがリアル旅行会社との提携だ。Orbitzは、American Express Retail Travel Networkと提携して、AmexOrbitz経由で販売するホテルに対して12%のコミッションを支払う。Expedia2010年からTravel Agent Affiliate ProgramTAAP、日本の「熊の手」)を開発し、現在までに世界の16,000の旅行会社と提携した。TAAP参加の旅行会社にはホテル予約に10%、レンタカーとツアーの予約には5%のコミッションが支払われる。Expediaは、この他にもExpedia Affiliate NetworkEAN)のホワイトレーベルB2B2Cツールを展開している。かっては宿敵だったリアル旅行会社までとも提携して、リーチの拡大とOTAでは提供できないオフラインの顧客サービスを獲得しているのだ。OTAとリアル旅行会社の提携は異なる企業間のO2O(6) と言えなくもない。なおこのコミッションは、マーチャントレートに載せた利幅の一部から捻出されている。

 

OTAとリアル旅行会社の提携は、オンとオフの仲介業者が結託するのだからホテルに対して大きな影響を与えるだろう。PricelineBooking.comは、欧州大手EasyJetにホテル予約エンジンを提供する排他的な契約を締結した。また間際予約アプリTonightを開発し、165カ国200,000ホテルの最大50%引きの大幅値引き販売を開始している。Agodaも、韓国のJeju Airのホテル予約を支援する業務提携を締結した。そしてレンタカー事業Rentalcars.com(元TravelJigsaw.com)を強化して事業の多角化を目指している。この他にも、米大手OTAたちは、国際市場 ---- 特にアジア ---- への展開を一層拡大し、そしてコンテンツやレビューをますます強化している。同時に、将来旅行の中心的メディアムとなること必至のモバイルについても抜かり無く対応を準備している。米大手OTAのホテル販売攻勢は、ちょっとやそこらでは止まらなさそうだ。(6) O2OOnline to Offline=オンラインとオフラインの購買活動の連携を指す。

 

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(H.U.)