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プライスラインの成長の軌跡

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プライスラインの成長の軌跡

(これは、トラベルジャーナル7月16日号「躍進するプライスライン」に掲載された記事の原稿である。)

 

  Pricelineは、早くからグローバル市場に展開し、今では時価総額世界最大のオンライン旅行会社(OTA)となった。

  しかし、その成功までには、決して平坦な道ばかりを辿って来た訳ではない。

  目まぐるしいほど変化の激しいインターネット業界で、この成功を持続できるかが問われている・・・。

 

【会社沿革】

Priceline.comは、97年に米コネチカット州Norwalkに設立されたインターネット企業である。今までのサプライヤーと消費者の関係を完全に逆転させた逆オークションの「Name Your Own Price」(N-Y-O-P)システムを開発して有名になる。創業者のJay Walkerは、米国の航空会社が毎日500,000席を空席で飛ばしていることに目をつけ、この空席の在庫処理販売方式N-Y-O-Pを考え出したのだ。

 

994月にNASDAQに上場し、00年初めには航空便、ホテル、レンタカーから、住宅ローン、自動車販売、ガソリン、長距離電話、雑貨品販売、中古品販売などの多くの異なる商品のオンライン販売に事業を拡大した。そして英国のpriceline.co.uk、豪州とNZMyPrice、バーガーキング元CEOが率いるGeneral Atlantic PartnersとのPriceline Europe、香港のコングロマリットHutchison WampoaとのPriceline Asia、日本のソフトバンクとのPriceline.com Japanを矢継ぎ早に設立し世界に進出した。(この試みが、04年から始まる2回目のグローバル展開の貴重な教訓となる)しかし、Priceline.co.ukPriceline AsiaPricelinemortgagesを除いて、ほとんど全ての事業は成功しなかった。この失敗で、会社は一時破綻寸前まで追い込まれる。結局、当初の旅行プロダクト販売に復帰し、厳しいリストラ計画を実施した結果、会社設立後6年目の03年に初めて黒字を計上することができた。

 

【力強い財務諸表】

以来今日まで、ほぼ全ての年で大幅増益を達成し破竹の勢いの連続利益を計上している。12年第1四半期決算(1月〜3月)では、収入10.3億ドル(前年同期比 +28%増収)、純利益1.8億ドル(+75%増益)を計上した。連続して増益を重ねた結果、それに連れられてキャッシュフローも年々拡大し、総資産は50.9億ドルまで増加した。驚くべきは流動資産42.0億ドル(+37%増)の大きさだ。流動資産比率は83%となり流動比率は3.3倍となった。(流動資産比率=流動資産÷総資産)(流動比率=流動資産÷流動負債)財務のややこしい細かな話は別にして、Pricelineには、要するに手元資金が溢れ返っているのだ。高い収益率と力強いバランスシートのお陰で、株価は今年に入ってから +33%上昇し644.8ドル(627日)を付けている。時価総額は326.8億ドルとなり、米国航空会社時価総額最大のDelta航空の95.3億ドルを3.4倍も上回る。米国における旅行会社の昨年の総販売額順位で、American ExpressCarlson Wagonlitの老舗とライバルのExpediaに続いて第4位にランクされるメガ・オンライン旅行会社(OTA)までに成長した。

 

[米旅行会社総販売額 Top 10]

 

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(注、Travelocity2010年から決算データを開示していない)

(出典:米Travel Weekly 2012 Power List, 販売額は11年実績)

 

[Priceline 収支の推移]

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【成功の秘訣】

Pricelineの成功は、N-Y-O-Pの逆オークション販売システムの開発と積極的なグローバル展開の2つによって達成されと言われている。N-Y-O-Pでは、サプライヤーが価格を設定するのではなくて、その反対に消費者が希望する価格をPriceline.com経由で通知する仕組みが採用されている。消費者は、希望価格と目的地(都市)を入力することができるが、航空便の場合は出発時間や直行便の指定ができない。その上に払戻が効かない。格安運賃の購入の見返りに、消費者には厳しい条件が強いられることになる。(希望価格の指定に際しては、Pricelineが提案する推奨価格が入力前に消費者に提示される。また、極端に安い希望価格は受け付けられない)

 

在庫処理を抱えてしまったサプライヤーは、価格引き下げて在庫を一層したいのはやまやまであるが、値引きによるブランド毀損を怖れて簡単には値引きできないジレンマに立たされている。N-Y-O-Pであれば、消費者が実際に購入するまではサプライヤー名(航空便名)が明かされないので、サプライヤーは値引き価格の露出によるブランド毀損のリスクを回避できることになるのだ。在庫を抱えたサプライヤーは、このシステムに飛びついた。(消費者が購入するまでサプライヤー名が明かされないシステムは、オペーク/opaque/"曖昧な"販売と呼ばれている)(但し、景気が回復に向かい始めると、在庫が減少する結果サプライヤーのN-Y-O-P依存は少なくなるという傾向がある)

 

先の国際市場進出に失敗したPricelineは、2回目のグローバル展開に際してオーガニックな進出方法に代えて企業買収戦術を採用した。04年にActive Hotels(英)を買収し、05年にBooking.com B.V.(蘭)、07年にはAgoda(タイ)(いずれもホテル販売OTA)を買収した。そして10年にはレンタカー販売のTravelJigsaw(英)を買収した。(Active HotelsBooking.com B.V.は、05年にBooking.comに統合された)(TravelJigsawは、rentalcars.comに名前が変更された)

これ等の欧州とそれに続くアジアのOTA買収により、Pricelineの国際販売(ほとんどホテル販売)が劇的に増加した。2011年第1四半期の国際販売額は、54.5億ドルに過去2年間で売上げが約2.8倍に増加し全販売額の80%以上を占めるまでに至った。

 

[PricelineExpediaの総販売額推移]

 

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Pricelineは、買収したOTAをそのまま継続して独立させ、彼らの自主的な経営を尊重した。米国で流行ったN-Y-O-Pは国際販売には適用せず、買収前から行われていたBooking.comのコミッション販売方式と、Agodaのマーチャント販売方式をそのまま継続させているのだ。(マーチャント販売とは、卸値による販売を指す)この素早いグローバル展開と買収企業の独立運営が、Pricelineの成功の大きな要因となったことは間違いない。

 

 

【米大手OTAとの比較】

ライバルのExpediaと比較して見るとPricelineの特徴が良く解る。収入規模は、Priceline 10.3億ドル(第1四半期 以下同じ)に対してExpedia8.1億ドルとそんなに大きく変わる訳ではない。大きく変わるのは、国際販売とマーチャント販売による収入だ。Pricelineの国際販売54.5億ドルは、Expedia 32.6億ドルの1.7倍の規模となる。マーチャント販売の収入については、もっと際立った違いを見せている。Pricelineのマーチャントは、4.9億ドル(全収入比48%)に対してExpediaのそれは6億ドル(74%)となる。Pricelineではコミッション販売が多いのに対して、Expediaの収入のほとんど(3/4)はマーチャントとなる。Pricelineでは、15%程度のマージンのコミッション販売を中心とした45.9百万ルームナイトのホテル販売が利益の源泉だ。Pricelineが、ホテル販売OTAと言われている所以だ。それに対してExpediaは、マージンの高い(15%30%と言われている)マーチャント販売で稼いでいる。Expediaは、22.7百万ルームナイトのホテルに加えて航空、レンタカー、ツアーなどの多くの種類の旅行プロダクトを販売している。

米大手OTA 4強の残るOrbitzTravelocityは、ここ数年間、連続して欠損を計上し、PricelineExpediaに大きく引き離されている。Orbitzの第1四半期の総販売額 31.4億ドルは、Pricelineの半分以下(47%)にしか満たない。

 

[PricelineExpediaのコミッション販売とマーチャント販売収入の推移]

 

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【将来の見通し】

Pricelineのこの業績は、将来も続いて行くのだろうか? 欧州市場を既に開拓したPricelineは、Agodaを買収してアジア市場に於けるシェア拡大を狙っている。成長著しいバケーション・レンタルや、そして個人所有の空いている住居や部屋を貸し出す新種のビジネス(airbnb.comが有名だ)にも参入した。また、これから旅行流通の主役に確実になるモバイルにも、間際販売アプリPriceline Tonightを開発して対応している。なにしろPricelineの金庫には、巨額の余裕資金が眠っているのだからR&DM&Aに対する投資には困らない。

 

しかし、現在の国際ホテル販売が中心のビジネスモデルを継続する限りは、Pricelineの将来は決して明るいものではないだろう。OTA間の競争の激化が予想されることと、ホテルの直販が拡大することが予想されているからだ。

そもそもPricelineの顧客は、ブランドに対するロイヤルティーが欠けた格安料金志向の旅客たちなのだ。長期的にサステイナブルな事業の継続には、顧客に対するバリューの創造がマスト必要だ。旅行流通のチャネルはどんどん拡大し進化している。デバイスが、PCからタブレットやモバイルに代わりつつある。大手検索エンジン ポータルやソーシャルネットワーキングが、旅行分野に進出し始めている。Pricelineに限ったことではないが、OTAに対する生き残りをかけたビジネスモデルのイノベーションが要求されているようだ。現に航空販売中心のOrbitzは、サプライヤーである航空会社の直販拡大、コミッションカット、高度洗練化された需給調整手法の導入(在庫削減)により、財務的苦境に立たされている。航空で起きているサプライヤーの販売手法の進化は、ホテルにも必ず伝播する筈だ。

 

 

【第2四半期(4月〜6月)決算】

 

(単位:米$ Million

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