旅行流通速報 Vol. 548 号
1. フォーカスライトの
アジア オンライン旅行市場概観(第5版)
2. グーグルの旅行エコシステム
3. 中抜きできないミドルマンGDS
4. アメリカン航空とGDSの戦い
5. ホテルとOTAの価格談合団体訴訟
6. メディカルツーリズム(その2)
7. 其の他のニュース
8. 編集後記「航空同盟って?」
TD勉強会
1. フォーカスライトの
アジア オンライン旅行市場概観(第5版)
米旅行シンクタンクPhoCusWrightが、APAC Online Travel Overview 5th Editionを発行した。 これは、豪州、中国、香港、インド、インドネシア、日本、マカオ、マレーシア、ニュージーランド、シンガポール、韓国、台湾、タイの13ヶ国地域をカバーしたAPACオンライン旅行市場の調査レポートである。 この内、豪州ニュージーランド、中国、インド、日本については独立した章として記述してある。
詳細はwww.japan.phocuswright.comを参照下さい。
日本の旅行市場はAPAC最大の旅行市場である。
travopia.com, 8/15/2012
2. Google Can Disrupt Travel Industry With Their Suite of Products - "Google Travel" On The Cards?
グーグルの旅行エコシステム
5年前に「グーグルの強みは?」と聞くと、誰もが異口同音に「ものすごく速い検索スピード」と回答した。 2012年では、皆異なる回答をする。 Googleは、単なる検索エンジンから抜け出てカバーする領域を拡大しているからだ。 領域拡大の1つが旅行だ。 レストランガイドのZagat、写真共有サイトのPanoramio、航空便検索のITA Software、旅行ガイドブックのFrommer'sを買収している。 Googleが、旅行エコシステムの全てを埋め尽くそうとしているのは明らかだ。 旅行エコシステムにおけるGoogleの進出をリストしたのが下図だ。 これはまるで"Google Travel"だ。 既存の旅行業界への影響は大きなものとなるだろう。 この図には、開発途上のGoogle Glass(グーグル眼鏡)は未だ組み込まれてない。 このプロダクトの内容の詳細が明らかになった時には、Google Travelは(特に旅行途次のエクスペリエンス強化で)更に強化されるだろう。 Googleは、アップル社のiTravelへの対抗を着々と準備している。
Economist.com, 8/25/2012
3. The Ineluctable middlemen
航空会社はお人好しだ。 利益を他人の為に一生懸命捻出している。 自分のためには、好景気の時に搭乗券の厚さぐらいの薄い利益しか計上しない。 過去40年間の世界の航空会社の利益率は、悲惨にも0.1%にしかならない。 それに反して航空会社と取引している旅行関連企業の 航空機メーカー、旅行会社、空港、機内食ケータラー、整備工場はうまくやっている。
最もうまくやっているのは、GDSだ。 最初は、旅行会社経由で自分たちの航空便の販売を実施するために、大手の航空会社数社がこの予約システムを設立したがその後独立した。 伝統的旅行会社(TTA)とオンライン旅行会社(OTA)が販売するほとんどの航空便は、このGDS経由の予約だ。 GDSは、この予約に対して航空会社に往復航空券当り $12のブッキングフィーを課している。 この内の数ドルを旅行会社にインセンティブとして還元している。 航空会社のロビー団体であるTake Travel Forwardは、世界の航空会社が今年の利益見通し $3bnの倍以上の年間 $7bnのブッキングフィーを支払っていると言っている。
航空会社の慢性的不採算の一部は、競争(特にLCCとの競争)に起因している。 しかし、この他に1990年代以降航空会社が誤って採用した2つの戦略によるところが大きい。 その1つは、旅行会社に直接コミッションを支払わなくなったことだ。 2つ目は、予約システムを解放してGDSをここまで大きくしてしまったことだ。
インターネット時代の幕開けに伴って、航空会社は自分たちと顧客の間のミドルマンが居なくなると想定した。 顧客は自社直販サイトか、予約したい顧客を直接航空会社に送り込む運賃検索エンジン(メタサーチ)のどちらかを使用すると考えた。 そう考えたのだから、航空会社は、旅行会社に支払うベース・コミッションを廃止した。 そして、当局に旅行会社の端末画面のバイアス表示を禁止された予約システムの所有を止めた。 LHとIBは、所有していたAmadeus株のほとんどを売却した。 AAはSabreを売却した。 BAとKLMは、ガリレオを売却した。 他社もこれをフォローした。
しかしながら、航空会社のゼロコミが旅行会社のGDS依存をかえって強化した。 GDSは、わずかながらのインセンティブと バックオフィスのコンピューティングを旅行会社に提供している。 多くのOTAもTTAに倣って、GDSと契約して予約システムとその他のコンピューティング システムとインセンティブを獲得した。 航空会社のミドルマンのバイパス努力に拘らず、航空便予約の半分以下しか自社直販サイト経由になっていない。
幾つかの航空会社は諦めて、自社の全ての旅客取扱いインハウスシステム(幾つかのケースではWebサイトまで)をGDSに移行した。 BAのBA.comは、Amadeusが取扱っている。 最初はGDSを拒否していたeasyJetを含む幾つかのLCCも、今ではGDSを利用している。 この変心の理由は、法人旅行管理会社(TMC)が使用するGDS経由のよりハイイールド旅客の獲得のためだ。
最近の航空会社の採算性向上策の1つは、機内食、チェックイン手荷物、快適座席などの追加サービスに課す付帯サービス運賃だ。 問題は、これらをGDSが取扱えないことだ(と航空会社は言っている)。 幾つかの航空会社は、GDSの対応が緩慢なことに怒っているが、シェアとリーチの大きなGDS無しではどうにもできないことも認識している。
AAとACおよび他の数少ない航空会社は、TTAやOTAがGDSをバイパスして直接航空会社CRSにリンクするダイレクト・コネクトを開発している。 これらの航空会社は、ダイレクト・コネクトを広めるために(GDSに支払うブッキングフィーよりも少ない)コミッションの支払いを再開している。 現在のところ、旅行会社はGDS依存を継続している。 ダイレクト・コネクト採用のためには、彼らのITシステム改修のための高いコストが発生するからだ。 それに加えてGDSとの複数年間に亘る契約がダイレクトへの移行を妨げている。
これらの問題を解決するために、航空会社の国際業界団体であるIATAは、「new distribution capability」を開発している。 このプロジェクトの1つの主要ポイントは、ダイレクト・コネクトの共通した技術標準を開発することである。 GDSもこの新標準を使用することができるので、新たな付帯サービスの販売も可能になる。 航空会社にとってのメリットは、それよりも旅行会社や検索エンジンがこの新標準により容易に航空会社CRSとの接続ができるようになることである。
Googleは、航空便検索システムを開発しているIT SoftwareやガイドブックのFrommer'sを買収して旅行の領域の活動を強化している。 航空会社は、共通技術標準の開発により多くの革新的な新旅行検索会社が誕生することを願っている。 しかし、これに対してアナリストは懐疑的だ。 彼らは、既存のGDSに取って代わるシステム構築には巨大投資が必要となり、この事業は必然的に寡占化する傾向があると見ている。
IATAは、この新技術標準の年内の合意を望んでいる。 しかし、通常は 航空会社のこの手の合意は厄介だ。 業界への導入も問題となるだろう。 どの業界でも、野心的なITプロジェクトが壊滅的に失敗することが良く存在する。 IATAが、この新たな技術標準に対して絵数百の航空会社の合意を取り付けてコンピュータシステムの開発に成功したとしても、現行の旅行会社とGDS間の契約を当局の介入により破棄できない限り、GDSの市場支配は大きな影響を受けないだろう。
実際、米司法省や欧州委員会の競争監視当局は、この問題の調査を開始している。 一方、米大手航空会社の2社は、GDSの旅行会社に対する支配的地位の濫用を裁判所に訴えている。 AA航空のSabreに対する訴訟は、テキサス州裁判所で10月から開始する。 AAは、この他にもSabreとTravelport(Galileo, Worldspan, Orbitzの一部を保有)を連邦裁判所に競争法違反で提訴している。 US航空もSabreを同様の趣旨でGDSを提訴している。
GDSは、主要な付帯サービス運賃のGDS経由販売を航空会社に義務づける規則の導入を米運輸省に対して要求している。 GDSは、広く一般に使用されているGDS経由で公正な全運賃の比較を可能にすることが公衆の利便に通じると主張している。 AA航空は、原則として全運賃の開示には異論がないが、当局の介入による過度の規制強化は回避するべきだと反論している。
IATAとその他の航空業界団体は、最悪のシナリオとなる、いかなる運賃やプロモーションの自社直販サイトにおける排他的販売が禁止されることを恐れている。 運輸省は、11月に規則変更を発表する予定だ。 航空会社も旅行会社も自分たちが消費者利便に勝っていると言っている。 航空会社は、ミドルマンのコストが運賃を値上げさせていると言っている。 消費者により多くのチョイスとより消費者のニーズに合った商品を販売したいと言っている。 GDSは、消費者がベストな航空便を選択できるようにするために、旅行会社経由の予約システム(GDS)で全運賃の比較を可能にしたいと言っている。
Amadeusは、航空会社はGDSのブッキングフィーにばかり拘っていると批判している。 収入の約2%に相当するこの費用よりも、かってないほど上昇している旅行税の問題や、幾つかの国営航空に対する不公平な政府補助の問題の解決によるもっと大きなコスト削減に航空会社は取り組むべきであると言っている。 航空会社は、それらの大きな問題にも取組でいるが、それでもミドルマンのコストを削減したいと言っている。
travelmarketreport.com, 8/20/2012
4. Judge Tosses Out Travelport's Claim in AA Antitrust Suit
アメリカン航空とGDSの戦い
テキサス州北部地方裁判所の連邦判事が、TravelportのAA航空に対する競争法違反の訴えを棄却した。 Travelportは、AA航空のSabreとTravelportに対する2011年4月の競争法違反の訴えに反訴していた。 Terry Means判事は、Travelportの損害を主張する法的根拠が薄弱であるとして、同社の反訴を退けた。
Travelportは、AAが世界最大の航空会社の1社のコンテンツの価値の持つ力を濫用して、GDSからコンテンツを引き揚げると脅して、AA航空の機能劣った単一ダイレクト・コネクトへの変更を旅行会社に強要していると訴えていた。 Travelportは、以下の通り裁判所に対して説明した。
・ AAが旅行会社に対してTravelportとその他のGDS利用を中止してダイレクト・コネクトへ変更しない限り取引しないと脅している。
・ AAのダイレクト・コネクト採用を、AAの全運賃とフライト情報(コンテンツ)の提供の条件としている。
・ そして、AAのダイレクト・コネクトが提供できない多くの機能について、GDSが旅行会社に提供している機能をコストも支払わずに旅行会社に利用させている。
判事Meanは、AAのダイレクト・コネクト経由の分散したコンテンツの流通で影響を受けるのは、旅行会社とその顧客の旅行者であってTravelportではないと判定した。 この市場に於ける競争者は航空会社たちであり、消費者は旅行会社たちと旅客たちであってTravelportはどちらにも属しない。 Travelportは、競争違反で損害を受けないので、従って訴訟する根拠を有していないとした。
判事Meanは、Sabre, Travelport, Orbitzが要求したAAの競争法違反訴訟の却下を拒否した。 判事は、AAの競争法違反の訴え(SabreとTravelportが示し合わせてAAをグループでボイコットする)が、訴えに相当する十分な事実と合理的根拠を有していると述べた。 この判決は8月7日に下されたが、8月29日まで公表されなかった。 先週、AAとTravelportとOrbitzの3者は、裁判外の和解を模索するための当事者間の話し合いを優先させるために、AAの競争法違反裁判を暫時延期することを裁判所に要請した。 Sabreは、この要請には加わらなかった。
【AA関連記事】
AMR Is in Talks for Financing Deal (wsj.com, 8/29/2012)
AAが、Chapter-11離脱のために $600m以上の債権を保有しているヘッジファンドと $1bn〜$2bnのAA株式保有を交渉している。 この株式割当は、AAの単独会社再建を支援してAAの他社との合併交渉を強化するだろう。 ヘッジファンドには、Carlson Capital LP, Claren Road Asset Management LLC, Pentwater Capital Management LP, Litespeed Management LLC, J.P. Morgan Securities LLCが含まれる。 AAは、破産法廷に対してこのためのリーガルとプロフェッショナル手数料の支払い許可を申請した。 これに関する破産法廷の聴取が9月20日に開催される。
AMR Pilot Union Chief Still Wants New Accord (wsj.com, 8/30/2012)
AAのパイロット組合APA新委員長Keith Wilsonは、依然としてAAの最終労働協約案への組合合意が必要だと述べている。 Wilsonは、労使合意ができない場合、より不利な会社の協約*を押し付けられることを危惧している。(*Chapter-11では、破産法廷判事の承認を条件に、会社は一方的現行協約の破棄が可能となる。 そして会社単独の新協約編成が可能となる。)
先週、客室乗務員組合が新協約案に合意したので、現在はAPAのみが新協約に合意していないことになる。 客室乗務員組合は、AA CEO Tom Hortonを毛嫌いしている。 そしてUS航空合併を最優先にしている。 APA新委員長のWilsonは、新労働協約の成立失敗で辞任した前任者とは違って、US航空との合併には淡白な態度をとっている。
AMR, US Airways Talks Draw Closer (wsj.com, 8/31/2012)
US航空とAAが、合併交渉開始に必要になる機密漏洩禁止協定(NDA)に署名した。 AAがUSにこのNDA協定を送付してから既に1ヶ月が経過している。 USは、協定の内容に不満で署名を延期していた。 一方IAG(BA+IB)は、8月31日、AAとコンフィデンシャル協定に署名したことを明らかにした。 IAGは、AAの少数株式を購入すると言っている。 そしてIAG CEO Willie Walshは、先月、AAとUSの合併を歓迎すると述べている。 AAとUSは、NDAの署名は、AA+USの合併が成立した訳でないので交渉が行き詰まって合併話がご破算になる可能性も存在すると言っている。
tnooz.com, 8/21/2012
5. Hotel price fixing saga switches to the US with class action against Expedia and others
ホテルとOTAの価格談合団体訴訟
米国で、大手ホテルチェーンと大手OTA間の価格談合に対する団体訴訟が北部加州地方裁判所で持ち上がった。 SEAの弁護士事務所Hagens Berman Sobol Shapiroがこの団体訴訟の原告のNikita TurikとEric Balkを代表する。 彼らは、大手ホテルチェーンと大手OTAが価格談合して中小OTAの割引価格を妨げていると訴えている。 所謂Minimum Price Maintenance(RPM)を維持強化していると言っている。 訴えられたホテルチェーンには、Starwood Hotels & Resorts, Marriott International, Hilton Hotels & Resorts, InterContinental Hotels Groupなどが含まれる。 OTAにはExpedia, Priceline, Orbitzが、GDSではSabreが含まれている。 PhoCusWrightによれば、米国のホテル売上げは今年 $37bnに達し、その1/3がオンライン予約だという。
原告は、大手OTAが市場支配力を濫用してホテルチェーンに対して以下の条件を押し付けているというのだ。
・ リテーラーに対する最低販売価格維持契約の締結
・ ホテルとリテーラー間の契約の遵守
・ 割引価格提供リテーラーに対する客室サプライ中止
この団体訴訟の3週間前に、英競争監視当局がExpediaとBooking.comのOTA 2社とInterContinental Hotels Groupが価格協定を結んでいると警告した。 同委員会は、客室価格の値引きを禁止する個別契約を締結している容疑がIHGに存在するという"意見の申し立て"(state of objection)を発出した。 米国の団体訴訟は、英国OFTケースよりも規模の面において業界全体を巻き込むほどの大きなものとなるだろう。
RPMは、下流の顧客に対する最低と最高価格を取り決める、流通チェーンの異なるレベルの行為者間に存在する契約である。 2007年以前は、96年間の連邦法によりRPM自体が違法とされてきた。 しかし2007年6月28日に、高等裁判所はRPM自体では最早 連邦法で禁止されないとした。 RPMは、反競争による損害よりも 競争促進させる面をより評価する条理の法則(Rule of Reason)に基づいて判断されるべきとした。
加州は、依然としてPRM自体が州の競争法違反になるとしている。 法律上の解釈は複雑であるが、加州のAlexander Anolik Corporationの旅行法律弁護士は、この団体訴訟に懐疑的である。 消費者の損害の算定が困難であること、RPMが存在するとしても需給の多寡によりホテル価格が現に変動していること、消費者はオンラインで格安ホテル価格を検索できている事実 などを勘案すると、この団体裁判はこれに関係する弁護士だけを儲けさせる結果となるだろうと彼は言っている。
travelweekly.com, 8/22/2012
6. Medical travel can be lucrative, but fraught with complexity
メディカルツーリズム その2
メディカル・ツーリズム(MT)に伴う国外旅行は、空港に於ける出迎えや、空港と病院やホテルの間の送迎、付き添い者が泊まれる広い病室などのいろいろな手配が必要だ。 米国の医療旅行者のほとんどは50歳〜60歳の人たちで、10日〜20日間の医療ために家を空けることになる。 知らない土地、通じない言語、なじみの薄い医者や看護婦、現地の付き添い、医療旅行者にとっては全てがストレスフルとなる。 それに加えて、何と医療旅行者の1/3はパスポートを持っていない。
成長するMT市場への旅行会社の参入が増加し始めている。 しかし、MTの最大の問題は、①:この複雑な市場の理解と ②:医療ミスや合併症発生などのトラブルに起因する法的責任の所在の2つの問題だ。 このリスクが存在するために、多くの旅行会社がMT市場への参入をためらっている。 American Marketing GroupのWell-Being Travelは、旅行会社に対してMTの啓蒙と教育を実施している。 そして教育履修者に対しては、MT取扱者の資格認定書を発行している。 2年間有効のMT資格を取得するためのWell-Being Travel教育コースは $1,500する。 3年毎の更新料は $500となる。 受講者は、絶えず継続した教育を履修しなければならない。 MTを取扱う旅行会社に最も重要なことは、複雑な旅行を取扱うスキルとストレスフルな医療旅行者との間の信頼関係の構築だと言っている。 医療旅行者には、多くのプライバシー保護の問題も存在するので、旅行会社との信頼関係構築が重要になる。 医療旅行者やその関係者から、信頼を得るためにはMT取扱の資格とか経験が必要になる。
法的な問題は複雑だ。 米国の裁判所は、天災や他のサプライヤーの間違いに対して先ず旅行会社に責任を求めることはしない。 しかしMTに関しては判例がある訳でないので、これは保証の限りではない。 米国の裁判所は、極めて少ない例外を除いて、米国と関係ない外国の医者や病院や法人や組織に関する訴訟を受け付けない。 従って、何かあった時は外地における訴訟となる。 米国の原告の弁護士は、外地の弁護士と連携して外地で裁判を起こすことになる。 この場合は、原告の外地裁判所への出廷が必要になる上、異常なほど長期にわたる裁判や、勝訴しても極めて少ない賠償金しか出ないなどの問題が存在する。 第三国で安い医療を受けると、その医療ミスに対しても第三国基準の極めて安い賠償しか得られない。 その結果、米国の弁護士は、米国内での被告人探しに精を出すことになる。 つまりMTを手配した旅行会社がターゲットにされる可能性が存在する。
旅行弁護士Mark Pestronkは、MTを扱う旅行会社に以下の最低4つをアドバイスしている。
①つは、ライアビリティーを回避するために、常時米国のMTファシリテイターの利用。つまり、医療旅行者に対する外地の病院の紹介や斡旋は、全て専門家のMTファシリテイターに任せ、旅行会社は旅行のロジスティクスに専念するべきだ。
②つは、顧客となる医療旅行者とその関係者が署名する免責書の作成。
③つは、顧客に対する保険の加入。
④つは、旅行会社の過失怠慢賠償責任保険(EOS)への加入。
7. 其の他のニュース
旅行流通・TD
【法人旅行ニュース】
(1)オープン トラベル ポリシー、TMC反論
出張規程の厳格な遵守を止めて、出張者自信の判断で手配させる方が効率的だとする意見*に法人旅行管理会社(TMC)が反論している。(*先週号 情報547号 P8「規定遵守よりも予算必達」参照) 規定外の予約は、出張者の居場所の追跡を不可能にするのでセキュリティー上問題がある。 また出張費の管理も煩雑になるのでオープン トラベルの方が効率的だとする根拠がないとTMCは言っている。 しかし、彼らは柔軟性に富んだ規定は必要だと言っている。 要は、企業文化や規模などにより、企業毎に適した規定とその適用の方法が存在する筈だと言っている。(travelweekly.com, 8/23/2012)
【GDS関連ニュース】
(1)GDSニュース 8月22日〜24日
8月22日 Abacusのモバイルサービスのアクティブ サブスクライバーが、2012年上半期で 50%増加した。 ビジットが78,000に増加した。 これにはAbacus Virtual Thereのトラフィックが含まれる。
8月24日 AmadeusとJet Airwaysが提携した。 インドのLCCは、Amadeus Ticket Changerシステムを利用することとなった。
(tnooz.com, 8/24/2012)
【その他の旅行流通ニュース】
(1)英国航空のソーシャルシェアリング アプリ
BAが、British Airways Perfect Daysアプリの延長で、顧客の旅程や旅行計画を友達や家族とシェアできる新たなiPhoneアプリケーションを開発した。 このアプリは、スマートフォーンにビルトインされた位置情報測定GPSを使って、BAの路線の9都市の旅行ガイドを閲覧できる他、ユーザは、Google Mapの上の 好きな場所にピンを立ててそこに写真やレビュー(口コミ)をアップロードできる。 Facebookと同期さられているのでソーシャルメディアとのシェアも簡単だ。 また、その他の航空会社の販売増の目的のアプリとは異なり、Perfect Days iPhoneアプリはシェアリングに力点を置いている。 しかしアプリのホームスクリーン上には航空便予約ボタンも設置してある。 アプリは、Apple's App Storeから無料でダウンロードが可能である。(mobilecommercedaily.com, 8/16/2012)
(2)カーニバル、付帯サービス運賃導入
(3)ホテルのサーチャージ +5.4%上昇
NYU School of Continuing and Professional Studiesによると、2012年のホテルのサーチャージ収入が2011年に比べて +5.4%増加して $1.95bnとなるだろう。 ホテルの年間総収入は $100bn〜$120bnであるので、サーチャージの収入の比率は およそ2%となる。(travelweekly.com, 8/20/2012)
(4)オービッツ、手荷物料金不開示で罰金
Orbitzが、航空の手荷物料金を適切に開示しなかったとして、米運輸省から1月24日に施行された航空旅客者保護規則の違反を問われた。 米運輸省は、Orbitzの手荷物運賃を含めた総額運賃が 第一画面下部のスクロールしなければならない箇所に掲載したことを問題視している。 罰金は $25,000。(travelweekly.com, 8/20/2012)
(5)2012年上半期 米インバウンド旅客消費 $82.2bn
米商務省によると、今年上半期の米インバウンド旅客の米国内消費が $82.2bnと前年同期比 +11%増加した。 この傾向が持続すれば、2012年通期の消費額は $169bnとなるだろう。 オバマ政権は、National Travel and Tourism Strategyにより2021年までにインバウンド旅客1億人とその消費 $250bn達成の目標を掲げている。(tnooz.com, 8/21/2012)
(6)エジプト、ナイル川クルーズ再開
今週、ナイル川クルーズのカイロからルクソールまでの465哩が再開した。 ナイル川クルーズは1980年代に水深とセキュリティーを理由に中止されていたが、当局の浚渫努力と治安の回復で再開にこぎ着けた。 ナイルクルーズは、今まで、ルクソールまで航空機を使用し ルクソールから140哩のアスワンまでの河川クルーズを利用していた。 Abercrombie & Kentは、600哩ナイルクルーズ16日間パッケージを2013年から売り出す。(travelweekly.com, 8/21/2012)
(7)モバイル ブラウジング増
Web設計とディジタル専門家のNucleusの最近の調査が、旅行Webサイトのモバイルブラウジングが過去12ヶ月間で倍増したと言っている。 全トラフィックの増率 +20.5%を大幅に上回る。 特に豪華サイトのモバイルトラフィックが増加している。 2012年末には豪華サイトは、全体のモバイルトラフィックの30%に達するとNucleusは予想している。 10の旅行Webサイト(トラフィック220万)のみの調査であるが、明らかにデスクトップからモバイルへの移行の傾向が存在するので、この傾向に乗り遅れる企業はシェアを失うだろうと警告している。(tnooz.com, 8/22/2012)
(8)米国務省、エジプト旅行アラート解除
米国務省は、エジプト旅行に対する警告を解除した。 この警告は、5月〜6月にかけてのエジプト総裁選挙による混乱を勘案し3月29日より出されていた。 国務省は、シナイ半島におけるイスラエルとの衝突や、同地における外国人誘拐が散発しているが、これらは特定地域の限定的事件だとしている。(travelweekly.com, 8/23/2012)
(9)EMD利用 米国を除く世界で増加
IATAが、世界の旅行会社の 航空会社18社のためのElectronic Miscellaneous Document(EMD)の処理が、今年、14のBSP経由で約200,000に達したと発表した。 この数は、世界の61社のEMD発行可能航空会社の過去2年間の数百万のEMD発行数に比べると極めてわずかである。 EMDは、航空会社のオプショナル サービス(付帯サービス運賃)の追跡とフルフィルメントを可能にする。 IATAは、EMDの使用を2012年末までに航空会社の75%、2013年末までに100%にする目標を掲げている。
一方、米国のARCではEMD処理が2,000件にやっと達し、世界とは際立った違いを見せている。 米国の2,000件のほとんどは、PricelineのAA航空Preferred Seats販売である。(travelmarketreport.com, 8/23/2012)
(10)オービッツ、マックユーザに異なるホテル表示
Orbitzが、ユーザのオンライン行動を追跡した結果、MacユーザがWindowsのユーザよりもより高品質の高いホテルを購入していることを突き止めた。 そして、Macユーザ用の画面には、Windowsとは異なる表示を掲載している。(同一ホテルの同じクラスの客室の値段表示は変えていない。)
Orbitzのこの戦術は、リテーラーにとってプレディクティブ分析(predictive analysis)がいかに大切であるかを物語っている。(wsj.com, 8/23/2012)
(11)米大統領選挙で旅行業界団体動く
U.S. Travel Associationが、旅行業界の米経済に対する重要性を訴える最大の機会として米大統領選挙を捉えている。 U.S. Travel Associationは、旅行業界が1,400万の職を創出し $1.9 trillionの経済貢献をしていることを選挙の候補者たちに訴えている。 今年はじめにVoteTravel.orgサイトを立ち上げた他、来週の共和党の党大会と再来週の民主党大会で、Vote Travelブランドのキャンペーンの宣伝を展開する。 党大会の開催地のTampaとCharlotteのMarriotでは、Vote Travelのブランドのホテルキーカードを提供する。(travelweekly.com, 8/232/2012)
(12)スカイスキャナー(英)、中国百度と航空便検索で提携
欧州最大の航空検索エンジンSkyscannerが、中国最大の検索エンジン百度と提携した。 Skyscannerは百度に国際線航空便検索機能を提供する。 百度は、旅行情報のアグレゲーターとしてGoogleやExpedia(eLongに投資)との競争を意識している。 2011年11月には中国最大OTAのQunar(チューナー去哪儿網)の過半株式を $306mで買収し、国内線航空便検索を強化したばかりである。 Skyscannerは、シンガポール進出の後に中国市場へ参入しアジアへの展開を強化する。 またロシアのYandexとも提携交渉を進めている。 世界には、3つの大手航空検索エンジン(メタサーチ)が存在する。 Skyscanner(英)、Kayak(米)、Google(米)の3つだ。 Skyscannerの年商は £30mで月間2,000万のUV数(Kayakの2/3)を保有している。(FT.com, 8/23/2012)
(13)信仰旅行が増加している
UN World Tourism Organizationは、信仰ベース旅行(faith-based travel)が年間3億人〜3.3億人に達していると言っている。 U.S. Travel Associationは、全旅行者の25%が宗教的な休暇を求めていると言っている。 21世紀の信仰旅行は、大きな広がりを見せている。 聖地巡礼、信仰クルーズ、伝導旅行、ボランティア旅行、宗教ミーティングや会議、瞑想旅行、学生旅行など多岐にわたっている。(travelmarketreport.com, 8/23/2012)
(14)クオニ 上半期欠損計上
スイスのホリデーオペレーターKuoniが、上半期決算で▲Sfr29.4mの営業損失を計上した。 前年同期の▲Sfr32.5mより損失幅を縮小したが、アナリストの予想▲Sfr25.8mを上回った。 収入は +26.7%増のSfr2.64bnであった。 この収入にはGTAの買収が含まれている。 これを除いた場合は、+3.7%の増収となる。 通期営業利益見通しはSfr90mとしている。(FT.com, 8/23/2012)
(15)ペットOKホテル検索アプリ登場
ペット同伴OKのホテルを検索できるアプリPaWuvが登場した。 App Storeで 99セントでダウンロード可能。(tonooz.com, 8/24/2012)
(16)ハーツ、遂にダラー買収
Hertzが、2年間の歳月を経てやっとDollar Thriftyを買収する。 買収価格は $2.5bnとなる模様である。 この買収価格は、2010年に提示した $1.2bnの倍となる。 また5月に提示した査収価格 $2.2bnをも上回った。 これで米国のレンタカー市場は,
名実とともにEnterprise, Hertz, Avis Budgetの3強の寡占市場となった。 HertzのDollar買収は、競争法の厳しい審査に晒されるだろう。 Hertzは、この審査をパスするためにAdvantage部門を売却する予定だ。(FT.com, 8/25/2012)
(17)ビアター、iPadアプリ開発
目的地ツアーとアクティビティーのViatorが、昨年のiPhoneアプリに続いてiPad用のアプリを開発した。 このアプリは、世界の800の目的地の10,000のアクティビティーをリストする。 ARC Marketplace参加旅行会社とAAA旅行会社は、ARC Marketplace或はAAA経由でコミッション付きのViatorツアーの予約が可能である。(travelweekly.com, 8/26/2012)
空 運
【米 州】
(1)サウスウエスト航空、客室乗務員組合 新路線協定批准投票
Southwest航空の客室乗務員組合Transport Workers UnionのLocal 556支部が、8月21日、米国48州以外の新路線の乗務協定に暫定合意した。 組合員の批准投票は、9月5日〜21日の間に実施される。 新路線は、Alaska, Hawaii, Caribbean, San Juan, Venezuela, Ecuador, Colombia, Peruに加え 買収したAirTranの地点が含まれる。 Southwestは、南米新路線のベースとするためにHOUのHobby空港に国際線ターミナルを建設する。 また、同社は、国際線用の予約システムを準備している。 主として新路線に使用することなるB787-800型機は、今年よりデリバリーが開始されている。 なお、Local 556支部は、5月に提示された協定案を拒否していた。(dallasnews.com, 8/21/2012)
(2)米航空会社 5月旅客輸送実績▲0.3%減少
米航空会社の5月定期旅客輸送実績が、前年同月比▲0.3%減少して6,370万人となった。 11月以来の減少となる。 国内線は▲0.4%減、国際線は +0.7%増、L/Fは83.6%であった。 Southwest航空の旅客数がトップであった。 国際線旅客数ではUAがトップであった。(wsj.com, 8/23/2012)
(3)空港ボーディングゲートが様変わり
空港ボーディングゲートの待ち合いエリアが様変わりしている。 La Guardia空港のDLのターミナルDでは、電源とiPadの無料利用が可能だ。 この施設を作ったのは、空港でレストランなどを運営しているコンセッション会社のOTG Managementだ。 OTGは、空港で最後に残った改良すべき不動産であるボーディングゲートに目をつけた。 無料使用可能なiPadを導入し、搭乗待ちの旅客に航空便チェックはもとよりゲーム、インターネット ブラウジングを提供し、そしてハンバーガーや飲み物や新聞雑誌のオーダーまでを可能にした。 OTAはCターミナルを含めて2,000台のiPadを用意する。 そしてTorontoの1と3のターミナルでは2,500台を設置する。(wsj.com, 8/22/2012)
La Guardia空港ゲート Toronto空港ゲート案
(4)ユナイテッド航空、スリムシート導入
UA航空が、来年より同社のA320型機×152機にRecaro Aircraft Seating社(独)のアルミ製スリム型軽量座席を導入する。 この座席の導入により、1機当りの装着席数が1列(6席)増加する。 今年初めには、AlaskaとSouthwestがスリム座席を採用している。 LCCのSpirit航空は、2010年にスリム座席を採用し1機当り +33席増席すると発表した。(latimes.com, 8/22/2012)
【欧州&アフリカ】
(1)BAAがスタンステッド売却へ
STN空港売却命令に3年間も抵抗していたBAAが、遂に同空港の売却に踏み切ることとなった。 アナリストによると £1b以上の売却価格となるだろう。 BAAは、2006年にスペインの建築コングロマリットFerrovialが率いるコンソーシアムに負債込み £10bnで買収された。 Ferrovialは、不幸にも景気低迷前の不動産価格のピーク時に英国7空港を保有運営するBAAを高度LBOにより買収した。 その後、英空港政策の変更と英競争委員会の売却命令、それに英連立政権のLHR第3滑走路建設中止とFerrovialにとっては、まるで悪夢のような出来事が連続して発生した。 STNの買収に興味を示しているのは年金ファンド、インフラファンド、Manchester Airports Groupなどのトレードバイヤー達だ。 STNを基地とするRyanairも、買収希望コンソーシアムの1グループと組んで25%の買収に名乗りを上げた。 STNは、年間1,750万人の利用者がある英国第3位の空港である。 しかし、利用者数は最近の経済低迷を反映して減少している。(FT.com, 8/20-21/2012)
(2)BAAのリジョナル空港
業界アナリストは、リジョナル空港Glasgow, Aberdeen, SouthamptonをBAAが売却すると予想している。 BAAにとっては、LGW, Edinburgh, STNの3空港の売却後の、リジョナル空港を保有する戦略的価値が失われたからだ。 BAAのLHR空港収入は90%にのぼる。 しかし、BAAは、3空港売却後の事業の縮小は考えてないと言っている。(FT.com, 8/21/2012)
(3)LHR第3滑走路建設で 英運輸大臣交代か
英連立政権首相David Cameronと財務大臣George Osborneは、LHR第3滑走路建設支持に傾いている。 Cameronが、来月の閣僚変更時にLHR第3滑走建設に反対している運輸大臣Justine Greeningの交代を考えているようだ。 Greeningは、LHRの飛行ルート直下のPutneyを彼女の選挙区に持っている。 LHRの第3滑走路建設断念を含むロンドン南東部空港供給拡大取り止めは、連立政権のマニフェストにも掲げられている。 政府は、妥協案的産物として2015年までこの問題を棚上げにする方針だ。 英経済界や航空会社は、早期の建設開始が英経済の活性化に不可欠だと政府を突き上げている。 国会の全党航空グループは、8月22日、政府のロンドン南東部の空港容量拡大凍結に対して強く非難する声明を発表した。 LHRの拡張もしくは新ハブ空港の建設の何れかを、早急に決めるべきだと言っている。(FT.com, 8/23, 28/2012)
(4)ライアン航空のエールリンガス買収計画
Ø Aer Lingusは、8月214、株主に対してRyanairの買収ビッドを拒否するべきだと再び要請した。 買収価格(€694m)が安すぎることと、欧州委員会がこの買収を先ず承認しないことを理由に挙げている。 Aer Lingusは、2012年の利益見通しを2011年営業利益並みの €49.1mと予想している。
Ø 欧州委員会は、8月22日、RyanairのAer Lingus買収の詳細審査を開始すると発表した。 同委員会は、2007年に第1回のRyanairのAer Lingus買収をアイルランド発着路線の競争環境が著しく悪化するとして不承認としている。
Ø Ryanairは、欧州委員会の承認を取り付けるために、アイルランド発着路線のスロットを割譲する用意があると表明している。 そして、欧州の航空会社6社に対してRyanairのAer Lingus買収後のアイルランド発着路線への参入可否を問い合わせている。 しかし、関係筋の話によると、ごく一部の路線(LHR)以外に参入希望を表明した航空会社は存在しなかった模様である。
Ø Aer Lingusの資本構成は、Ryanair 29.82%, アイルランド政府25%, Etihad航空 3%となっている。 ア政府は、25%をRyanair以外に売却したがっている。 Etihad航空がア政府保有株の買収に興味を示している。
Ø 欧州委員会は、審査開始後90日後の来年1月14日までに結論を出す。
(FT.com, 8/24, 27/2012) (wsj.com, 8/29/2012)
(5)バージン、短距離路線進出か
VS航空が、英国内線短距離路線のLON=MANに参入することを計画している。 IAG(BA+IB)が、BMIを買収した際に欧州委員会から割譲を強いられたLHR発着枠12スロットペアーの獲得により、この短距離路線の運航を考えている。 IAGがBMIをLHから買収する以前は、VSはBMI便とのコードシェアを結び、その便を同社の長距離便のフィーダーとしていた。 アナリストは、既にLCCが市場を席巻している欧州域内の短距離路線ではVSの極めて小規模な短距離路線運営は成功しないだろうと予想している。 なお、VSは欧州委員会のIAGによるBMI買収承認に対してアピールしている。(FT.com, 8/20/2012)
(6)エールフランスとロールスロイスのエンジン整備獲得合戦
Ø AF/KLMが2011年9月にA350×25機($6bn)を仮発注した。 しかしエンジンメーカーのRolls-Royceとの間のエンジン整備の問題で、仮発注後1年経っても未だに確定発注に至っていない。
Ø Rolls-Royceは、エンジンを整備込みの"TotalCare"パッケージとして販売したがっている。 これに対してAF/KLMは、エンジン整備をインハウスの整備部門で実施したがっている。
Ø Rolls-Royceは、エンジン価格を安くする代わりに継続して発生する整備で儲けるアフターマーケット モデルを販売している。 Trentエンジンを購入している航空会社の90%がこのTotalCareパッケージを購入している。 Rolls-Royceの収入の2/3は、このTotalCareからだ。
Ø 一方AF/KLMは、自社整備部門を強化している数少ない航空会社だ。 同社の整備部門収入は今年上半期で €1.57bnに達している。 この内、他の航空会社からの収入が €56m(前年同期比+14.3%)ある。 19%の株式を保有する政府は、失業対策のためにもAF/KLMの整備部門強化に賛同している。
(FT.com, 8/23/2012)
【アジア&中東】
(1)カンタス航空の失速
QFが17年前の民営化以来初めて欠損を計上した。 B787×35機の発注を取消した。 株価は5年前から▲80%低下した。 世界最強の経済を誇る一国で、部分的に保護された寡占市場を支配しているにも拘らず、このありさまは極めて印象的である。
一体何が原因なのか? 政府と組合に、その原因がありそうだ。 組合は、高いコスト維持に固執した。 1992年のQantas Sale Actに見られる通り、残っていた真の豪州優良企業に対する憧憬のあまり魅力的な外資(と出資者)を遠ざけた。 航空会社が管理不可能な問題もQFを痛めつけた。 強い通貨豪ドル、世界的経済低迷、インバウンド旅客減少、容赦ない燃油費高騰、中東航空会社やLCCとの熾烈な競争激化がそれらだ。
QFの素晴らしい業績も数々存在する。 FFPプログラムは、過去2年間で航空事業の利益と同じ税前利益を計上した。 2003年に組合の干渉を回避するために立ち上げたJetstarは立派に利益を計上している。
しかしQF自身にも問題が存在する。 国内線市場シェアを65%も獲得しながら絶えず不平を言っているのにはイライラさせられる。 市場支配は、自己の慢心と消費者の不満を生み出している。 QFは、新規参入者や弱いライバルに対しては残忍だ。 何よりも悪いことは、過去の良き時代の亡影にしがみついていることだ。(FT.com, 8/27/2012)
(2)香港航空
· 6年前に設立された香港航空の親会社は、世界展開拡大を狙う中国国営コングロマリットのHainan Airlines Group(HNA)だ。
· 3月に開設した香港=LON線全席ビジネスクラス便を今月運休する。 香港発着旅客の半分以上のシェアを有しているCXとその子会社Dragon Airに勝てなかったのだ。 香港航空は、初の長距離便のMOW線を1月に運休している。
· アナリストは、マイレッジ プログラムも保有せず、法人顧客との関係も構築できていない香港航空の運休は当然だと考えている。
· 香港の航空当局は、整備能力を強化するまでの間、香港航空に対してこれ以上の航空機の導入を禁止した。 急成長に整備能力が追いついていないというのだ。
· HNAの大株主は海南島政府だ。 地方政府の支援を受けているにも拘らず、HNAの財務状況に懸念が持たれ始めている。 新興国の航空会社や昨年のGeneral Electricのコンテナリース部門の $2.5bnの買収を含む積極的な海外資産への投資が問題視されているのだ。 HNAの海運部門のGrand China Logisticsは、多くの国際債権者たちから用船料や燃料費の数百万ドルに上る未払いで訴えられている。
· 香港航空は、26機のフリートを保有している。 1月にはA380型機($3.8bn)×10機を発注し業界を驚かせた。 この10機を含めると、発注している機数は55機に上る。 しかし、今月、A380型機の発注取消を考慮していることを明らかにした。
· それでも、HNAは、立地条件の良い香港を基地とする香港航空の成長を支援して行くつもりだと言う。
(FT.com, 8/27/2012)
(3)バージン オーストラリア 利益計上
Virgin Australiaが、6月30日に終了した会計年度で A$22.8mの利益を計上した。 前年度は▲A$67.8mの損失であった。
(virginaustralia.com, 8/28/2012)
ホテル & リゾート
(1) トラベロッジ、債権者団が経営権獲得
Travelodge(英)が、債権者であるGoldman SachsとNYCのヘッジファンド2社により買収されることとなった。 この買収は、Travelodgeの負債のリストラの一環で、完全な経営権との交換に、銀行債務 £235mとユーロ債 £482mを帳消しとし、新経営者が新たに £75mの資金を注入する。 Travelodgeは、銀行債務 £635mを抱え年間の金利支払いが約 £100mとなっていたが、今回の企業買収によりこの債務がおよそ半分の £329mに減少する。 この取引により、2006年に高度のレバレッジ £675m(含 負債ファイナンス£475m)でTravelodgeを買収したDubai International Capitalの損失が具体化する。 2年前に、DICは、コベナンツ緩和のために £20mの資金注入を余儀なくされた。 また、今年初め、GoldenTree Asset ManagementとAvenue Capitalは、満期となる債務を肩代わりするための £70mのローンファシリティーの裏書きに合意している。(FT.com, 8/17/2012)
(2) 硬貨洗浄サービス
SFOのWestin St Francis Hotelは、1938年から硬貨洗浄サービスを行っている。 このサービスを展開しているホテルは、世界でここだけだろう。(FT.com, 8/19/2012)
(3) 英当局ランクカジノ取引審査
英競争委員会(Competition Committee)が、RankのGala Coral買収(£205m)を審査することとなった。 この審査は、公正取引委員会(OFT)の照会に基づいている。 OFTは、この合併により英国の大手3つのカジノ運営業者(Genting, Rank, Gala Coral)(GentingとRankは共にマレーシア資本)が2つになり、競争環境が阻害する恐れが発生すると言っている。 Rankは、Gala Coral買収により35の強力なカジノチェーンに23のカジノを追加することになる。 競争委員会の審査は、2013年2月までかかるだろう。(FT.com, 8/20/2012) (guardian.co.uk, 8/20/2012)
(4) ラスベガスサンズ株上昇
第2四半期の芳しくない業績とマカオの賭博収入の成長テンポの失速を反映して、夏の初めに値を下げていたLas Vegas Sands株が、 過去3週間で +16%も上昇した。 これは、8月のマカオの賭博収入の増加(回復)を反映している。 Wynn Resorts株とMGM株も同じような動きをしている。(blogs.barrons.com, 8/22/2012)
(5) MGM、マサチューセッツ リゾートに $800m投資提案
MGM Resorts Internationalがマサチューセッツ州Springfieldで、エンターテイメント リテール リゾートの建設($800mプロジェクト)を提案した。 Las Vegas Sands, Caesars Entertainmentに次ぐ米国第3位のカジノは、ここにホテル(250室)と89,000sqfのゲームスペースと20,000sqfの商業施設とレストランを建設する計画だ。 同社は、マサチューセッツ州の賭博委員会に $400,000の申請料金を支払った。 マサチューセッツ州は、昨年11月、州内の3つのカジノリゾートのライセンスを発行する州法を可決している。(travelweekly.com, 8/23/2012)
編集後記
「航空同盟って?」
世界には3つの大きな航空同盟(Airline Alliance)が存在する。 Airline Business 9月号によれば、3大航空同盟の旅客シェアは3/4にも達している。(下図パイグラフ参照)
3大航空同盟はFSA(Full Service Airline)の集団だ。 ほとんど全てのLCCは、航空同盟に属していない*。 ノーサビス(ノーフリル)でローコストのLCCは、短距離のPoint-to-Pointの路線を運営する航空会社なので、他社との乗り継ぎサービスを提供していないからだ。(*最近、唯一Air Berlinがoneworldに加入したが、Air BerlinはLCCからFSAモデルに転換しつつある。)
航空同盟の結成の背景には、2つの考えが存在する。 1つは"Big is beautiful"の考え、2つは競争排除の考えだ。
国際線運営にとっては、ハイイールドの法人旅客需要が利益の源泉だ。 この需要は、便の乗り継ぎを伴う複雑な旅程の旅客が多い。 特に最近の経済のグローバリゼーションの高まりにより、彼らは世界各地を飛び回っている。 従って、この需要の摘み取りのためには世界に展開した大きなネットワークが必要になる。 しかし、1社では全世界のネットワーク展開は到底無理なので、同盟を結成してバーチャルな世界路線網を構築しようとする訳だ。 その上で、同盟参加航空会社間の相互利用を可能にしたマイレッジ・プログラムの餌と乗り継ぎ利便なコードシェア便を用意して、このハイイールド旅客を同盟航空会社におびき寄せようとする魂胆だ。
2つ目の競争排除の考えは、説明を要しないほどストレートフォーワードだが、航空同盟と関連づけてこれを解説するのは複雑かつ厄介だ。 「複数の企業が集まれば必ず価格談合が始まる」と言われるくらい、企業は競争を排除したがっている。 ましてや、燃油費の高騰で財務的に苦しい最近の航空業界では、誰よりも収支改善の特効薬である禁断の果実の競争排除を求めている筈だ。 しかし、そうは問屋が卸してくれない。 競争法の厚い壁が立ち塞がるからだ。 もともと航空業界は、運賃談合体質のDNAを持っている。 航空会社(FSA)間には乗り継ぎ(インターラインと呼んでいる)が不可欠だ。 乗り継ぎのために、互いに競争関係にあるライバルの航空会社の座席を販売する業界なので、競争敵が同時に顧客にもなるという特殊な関係が存在する。 このインターラインに必要になる通し運賃を決定するために、長い間IATAの国際航空運賃カルテルが競争法適用を免除されてきた経緯が存在する。
しかし、このインターライン フレンドシップの時代はとっくに終わっている。 今では、全ての航空会社間のマーケティングに関するコンサーテッド アクションは、少なくとも先進国では厳しい競争法の審査の対象になる。 にもかかわらず、同盟結成が現に存在しているのは、同盟による競争阻害よりも公衆の利便促進が勝っているという"レトリック"が存在するからだ。 コードシェア便などによる乗り継ぎサービス改善とマイレッジ・プログラムの相互利用可能が公衆の利便促進に繋がるというレトリックだ。 3大航空同盟の一部では、「ジョイントベンチャー(JV)」契約を結んで運賃の共同設定や利益配分まで実施し、「独占禁止法適用除外」(Anti-Trust Immunity = ATI)という新たな特例措置によって、恰も合弁企業(JV)を設置したごとくの一体的な運営を行っている航空会社すら存在する。
航空同盟は長続きしない。 第一に、航空会社間の国境を跨ぐM&Aに対する規制(所謂国際条項)が 近い内に必ず緩和されると考えるからだ。 何故航空だけが、国際間における企業の合併や買収を許されていないのだろうか? この変則は、早晩是正されるだろう。 これが是正されれば、たとえばIAG + AAなどの国際M&Aも実現するかもしれない。 そうなれば、ATIによるJV契約も不要になる。
第二に、カルテル行為そのものである航空同盟の承認は、いかなるレトリックを用いても矛盾に満ち溢れていると考えるからだ。 ましてや、オープスカイによる競争促進とATIによるJV協定承認(競争抑制)を抱き合わせにしている米国流の政策は、オポチュニズムのなにほどでもないと言える。 米司法省と欧州委員会の競争監視当局は、80%以上の旅客シェアを持つ北大西洋路線の航空同盟の競争阻害の実態について最近調査を開始している。
RPK=Revenue Passenger Km
(出典:AIRLINE BUSINESS 2012年9月号)
(H.U.)
(以上)